歯牙移植は歯を移植することです。親知らずなどの歯として機能していない歯を失った歯の部分に移植します。人工物ではなく自分の体の一部を移植するため、特に10代で早期に抜歯をしなくてはいけない方に有効な治療法です。また、条件によっては保険診療で歯牙移植を行うことができるのです。
歯牙移植とは:インプラント・入れ歯ではできない「自分の歯を残す」治療
抜歯しなくてはいけない歯や歯がない部分に、自分の他の歯(特に親知らず)を移植する方法です。悪い歯を抜歯した穴に、親知らずを抜歯して、穴に入れて固定します。自分の歯を移植することによって、インプラントのように人工歯根を骨の中に入れなくていいのです。歯は移植後、歯の根の治療をしたり、詰め物やかぶせ物の治療をします。
抜かなくてはいけない歯や親知らずの大きさによってできる場合とできない場合があります。インプラントは大きさや長さが多くあるので色々な部分に、インプラントを入れることができますが、歯牙移植は抜く歯と移植する歯の大きさがある程度合っていなくては治療をすることができません。そのため、あまり多く行われていないのです。
歯牙移植のメリット
歯牙移植は入れ歯やブリッジ、インプラントとは異なり、自分自身の歯を再生させる治療の1つです。そのため多くのメリットがあります。
メリット1
歯根膜を残すので「噛み心地」が非常に良くなります。歯の根の周りには歯根膜という膜があります。この膜はものを噛んだときに硬いもの、軟らかいものなどを感じとる器官です。歯牙移植ではこの歯根膜が残せるため噛み心地がよくなります。
メリット2
10代でも治療が受けることができます。インプラントやブリッジは成長が止まってからでないと治療を行うことができません。自分の歯であれば成長によって歯が動くので成長期でも行うことができます。
メリット3
保険適用可能なのでインプラントに比べて安価に治療を受けられる 歯牙移植は条件によって健康保険内で行うことができます。インプラントも条件によっては健康保険内で行うことができますが、条件は厳しく、通常の場合はほとんどできないと思ってください。そのため、インプラントより費用が少なくできます。
メリット4
両隣の歯を削る必要がありません。 ブリッジ治療を行う場合は前後の歯を削る必要があります。しかし、歯牙移植は前後の健康な歯を削ることなく、新しい歯を作ることができます。 このように歯牙移植にはインプラントや入れ歯では実現できない多くのメリットがあります。 ではどんな人に向いている治療法なのかを具体的にみてみましょう。
歯牙移植の治療の流れ
歯牙移植の治療の流れと実際の治療の様子をわかりやすく動画にまとめましたので、こちらでご覧ください。具体的にイメージが湧くと思います。
STEP1 割れた歯を抜歯します
残すことのできない割れた歯を抜歯します。
STEP2 親知らずを移植します
歯茎の中に隠れている親知らずを抜歯し、手前の抜いた穴に移植します。
STEP3 糸で固定します
抜いた親知らずは強固に固定してしまうと、歯と骨が癒着し失敗の原因になります。そのため糸で固定します。
STEP4 根の治療をします
一度抜歯した親知らずは歯の先端で神経が切断されています。歯の根の治療をして根の中に細菌が繁殖しないようにします。
STEP5 プラスチックを詰めます
歯の神経を治療した穴にプラスチックを詰めて終了です。
歯牙移植ができる5つの条件
歯牙移植を行うにはいくつかの条件があります。これらの条件を満たさなければ歯牙移植を行うことはできません。
歯牙移植できる歯がある
歯牙移植するには移植できる歯が必要です。多くの場合、親知らずを使うことが多いのですが、過剰歯(かじょうし)や、歯の位置が悪い転移歯(てんいし)などを使うことがあります。
抜く歯と移植する歯の大きさが近い
抜いた歯の位置に移植する歯を入れるために大きさが近い必要があります。例えば大きな親知らずを前歯に移植することは難しいのです。できるだけ形や大きさが近い場所に歯を移植する必要があります。
抜く歯の周りに骨がある
歯を抜いた後、その周りに移植するための歯が植えられる骨が残っている必要があります。例えば歯周病で歯がグラグラで抜歯をしなくてはいけない場合、多くは周りの骨がなくなっています。そのため歯を移植しても歯を固定する場所がなくて移植ができません。虫歯や歯が割れる歯牙破折などで歯を抜かなくてはいけない時に歯牙移植は有効です。
移植する根の形は単純な円錐形である
移植する歯の根の形が円錐形で単純な方が歯牙移植の成功率が高くなります。移植する歯の根が曲がっていたり複雑な場合、移植する歯を抜く時折れてしまうことがあります。また、移植した後に根の治療を行う際、成功率が下がってしまいます。そのため、移植する歯は抜きやすく、根の治療がしやすい単純な円錐形である方がいいのです。
骨の厚みが十分にある
歯牙移植は歯がもともとない部分に親知らずなどを移植することもできます。抜歯して時間が経っている骨に穴を開け、親知らずを移植します。しかし、骨が痩せていたり、幅や深さがない部分には移植する歯を植えることができないため、必要であれば移植する前に骨を作る処置を行ってから歯牙移植を行います。